01、笑


昔から人に笑われるのは苦手だった。
京都に来てからは「鬼の土方」と影で言われているというのに、
今この場面を隊士たちに見られたらどうなるだろうと、土方は密かにため息をつく。
「…もう笑うのはやめたらどうか」
笑い続ける敵娼にぼそりと提案してみるけれど、
その言い様が更に可笑しかったらしく、彼女は口を抑えて下を向いてしまった。
「ああ、堪忍。堪忍しておくれやす」
笑いで震え涙を堪えながら言われても。
一夜の夢を過ごすためだけの、けばけばしい装飾の部屋の布団の上で
色気のない会話をしながら、土方は途方に暮れた。


女を選んで各自部屋に移ったのは、
いい加減酒が回った頃で、かなり夜も更けていたと思う。
左之助が覚束ない足取りで部屋に向かうのを見送り、
寝過ごすなよと声をかけ、自分も部屋に入ったのだが
敵娼が席をはずしている間にどうやら眠り込んでしまったらしい。


「驚きましたえ。戻ってきたら土方はん、布団の上でまあるくなって寝てはって。
あらぁ寝顔可愛らしいわぁと思てたら急に」
堪らないという風にもう一度彼女は吹き出して、
「石田散薬!って一言叫びはったんどす」
土方が目を覚ました時にはすでに敵娼は笑っていたというわけだ。


「信じられんな…」
普段なら絶対にしない失態だ。しかも女の前で。
屯所では常に気を抜けないせいか、酔って遊郭で居眠りしてしまうとは。
その上寝言など。
疲れているのだろうかと自らに探りをいれてみるが、
心当たりがありすぎて考えるのを止めた。


「土方はん、薬売りやったて前言うてはりました」
そんなことまで話しただろうか。
相手に気づかれない程度に土方は目を見張る。
確かに以前何度か指名している妓だったが、酒の席か閨でか、話したとすれば随分無防備だ。
「昔の夢でもみてはったんどすか」
たおやかな女の笑みを見ていると、そうだったような気もしてくる。
緑の田畑を渡る風。トシと呼ぶ友の声。


「…かもしれない」
答えながら抱き寄せた。
細い体が簡単に腕の中に倒れてくる。
白い首筋に唇を這わせていくと、女の唇から甘い声が漏れた。
「お疲れなんやったら」
仰向けに倒した女の瞳が潤んでいた。
「いつでもお越しになっておくれやす。お金なんかいらしまへん」
それには答えず、口付けを落としながら着物を剥がす。
首に女の腕が回された。
「幼子みたいどしたえ…」
ため息のように女が言葉を漏らす。
「土方はんの寝顔…」
言葉は最後、闇に落ちた。