08、血
「ありがとうございました」
懐紙で血を拭い、刀を納めたところでそう声を掛けられた。
見るとたった今、隊規違反のかどで介錯をした隊士の友で
涙を堪えた赤い目をしながら、総司に礼を言ったのだった。
「いいえ。私に出来ることをしただけです」
そう言うと、彼は黙って頭を下げた。
何か慰めの言葉を掛けようかと思ったが、
感情を押し殺した彼の顔を見ていると必要ないことのように思えた。
所詮人は自分自身で納得し、落とし前をつけなければならないのだ。
総司もそのままその場を後にした。
井戸の水を汲み、手を洗い顔を洗った。
介錯をした後は気が滅入る。
戦いの中で落とす命ならまだしも、
このように仲間内で判決を下し命を奪うのは正しいのだろうか。
そこまで考えて総司は頭を振った。
それは、私が考えるべきことではない。
顔を上げて、そこに総司は思ってもいなかった人物を見つけた。
「土方副長」
彼は着流し姿で柱にもたれ、こちらを眺めていた。
「済んだのか」
「はい」
自室で休んでいながらも、気にしていたのだ。
それならば立ち会えばいいものをと苦笑する。
総司は今度は刀を抜くと、刀身に水を垂らしていった。
「総司」
今では周りに隊士がいたら絶対にしない、仲間内の呼び方で土方が呼ぶ。
「俺を恨んでいるのか」
刀紋の上を清らかな水が流れていく。
「何を」
下を向いたまま笑う。
「正直に言え」
「そんなこと考えたこともないです」
「嘘をつけ」
土方を見上げた。顔を歪ませ、総司を睨んでいる。
「嘘じゃありません」
穏やかに微笑んで見せた。土方はため息をつく。
「俺はいつか餓鬼のようなところを直せとお前に言った」
「そんなこともありましたね」
刀を拭って、裏返してみる。血の跡は完全に消えていた。
「だがお前は物分りが良くなりすぎた。嫌になるぜ、全く」
嫌になるぜ、だって。
総司は笑いをかみ殺す。
「じゃあ、今度は餓鬼になれと命じますか」
そう言ってみると、土方はこの上もなく嫌な顔をした。
再び息をつきながら背を向ける。
「部屋にまんじゅうがある」
結局いつも子供扱いをするのは自分じゃないかと思いつつ、
総司は「お気遣い痛み入ります」と芝居がかかった口調で言った。
刀を鞘に戻し、素直じゃない大人の後姿に微笑んだ。
そして子供に戻るために彼の後をついていく。