「秋霖そして夢」





渇いた指先に染み込む冷え
思考だけは明瞭で
あの日の記憶をなぞる暮れ
浮かんでくるはお前の背
結った髪が雄雄しく揺れ
精気震わせ進んでゆく背
声を掛けたら片頬が
ちらりと笑って振り返るだろう


もしや、まだ  と
俺は手を伸ばす
お前たちが歩むその先にあるものから守れるのではないかと


だが夢の中の俺は
ゆっくりと手を下ろす
肩を叩き合い、からかい合い、お前たちが賑やかに逝くのを
止めたりは出来ないと
繰り返し悟る
だんだん小さくなる背
笑い声だけが響き、やがてそれも遠くへ


繰り返し見る、夢ともつかぬ夢
切なく苦しいのは俺だけで
お前たちはいつでも無邪気な餓鬼のよう


現実が夢で夢が現実で
曖昧な境界 揺れる黒髪
このまま追いかけて行ってしまいたい衝動
幾度も踏み留まらせたのは現の業か


花の終わりは遅かれ早かれ
俺は終わった後も
そこに留まっていただけという気がしてならない


目が醒めれば老いた身体に
漂っていた魂が落ち宿る
まだ雨は降り続き
微かに竹の青い香がした










(2003年)