07、涙
ふいに抱きしめられた。
「沖田はん」
苦しいほどに力を込められて、は息が止まりそうになる。
そして彼の腕が微かに震えていることに気づいた。
「どないしたん…?」
もしかしたら、泣いている?
その想像にどきりとした。
こんなことは初めてだった。
この別宅に居を移し、彼が通うようになっても
隊務から帰宅した彼はいつも穏やかで、仕事のことは何も語らなかった。
だからも何も聞かない。
仕事と家庭を遮断している彼の、安らげる場所となりたかった。
「・・・」
耳元で名前を囁かれ、甘い痛みが胸を指した。
沖田の背中に腕をまわし、はただ彼を掻き抱いた。
大きな背中。包み込まれる沖田の香り。
帰宅した彼を迎えに出た途端の有無を言わさない抱擁だった。
彼らしくない、強引さに満ちて。
合わさった胸を通して、彼の慟哭が伝わってくる。
「、私は人を殺した」
掠れた声で沖田が言った。
それはお勤めでしょう?疑問がよぎる。
何を気に病むことがあるのか。
武士であり京を守るという彼の立場上それは仕方のないことで、
彼の日常であったはずだ。
何がこんなにも彼を打ちのめしたのだろう。
「大切な、人だったのに」
語尾が震えていた。
熱い滴が一つ、の首筋を濡らして。
詳しいことは分からない。
だが頭の中に一つの映像が浮かんだ。
微笑みながら、その人に死を与えた彼。
そして静かに岐路を辿った。
誰も責めず、涙をも見せず、平静を貼り付けて。
玄関を開けた瞬間、糸が切れて。
掛ける言葉が見つからなかった。
気がつけば子供をあやすように彼の背中を撫でていた。
「お泣きやす」
男の人の涙なんて見たのは初めてだった。
どうしたらいいのか分からない。
無心に動かし続けた手が何度も何度も痩せて骨ばった背中を往復する。
「うちはここにおりますえ…」
自分には何が出来るだろう。
分からない。分からないけど、沖田のことが愛しい。
せめて自分の体温が伝わればいい、
暖かいと感じてくれればいい、そう思いながらただ背を撫で続けた。