15、誠


その知らせを聞いた時、やはりという思いがよぎり平助は目を閉じた。
「その情報は確かなのか!」
激昂した三木は使者に詰め寄ったが、
その蒼白の表情を見れば冗談などではないのは明らかだった。
「行こう、油小路へ。伊東先生のご遺体をそのままにしておくわけにはいかない」
篠原が呟いたその言葉に、全員が頷いた。
これが罠なのは分かりきっている。
そもそも酒肴を申し込まれた時点で用心してかかるべきだったのだ。
しかし今はそれを論じているべき時ではない。


袂を分かつと決めた時から、
こうなることを薄々予感していたのかもしれない。
だがそれでも走り出すのを止められなかった。
もう、覚悟は出来ている。
それよりもこの期に及んで彼らに恨みが湧かないのが不思議だった。
伊東先生が殺されたというのに。
平助は自分自身に苦笑する。
いっそ心の底から恨めたなら、事態は変わっていたのかもしれない。
山南さんの笑顔がふと浮かんだ。


七条油小路は不気味な静寂に包まれていた。
身を切るような冷たい風が吹いている。
「伊東先生!」
彼が殺されたのは承知していたが、
実際にその遺体を目にすると体が震える思いがして、平助は叫びながら駆け寄った。
全員で伊東に駆け寄り、その体を運ぼうとしてはっとする。
暗闇から一つ二つと抜刀した影が忍び寄っていた。
咄嗟に全員で背中を守り、刀を抜いた。
永倉さんは、原田さんは、いるのだろうか。
俺を斬りに来てくれただろうか。
平助は暗がりに目を凝らす。


「おのれ新撰組!」
後ろから怒りに燃えた服部の声が響いた。
「鬼畜にも劣る真似。誠の旗が陰るとは思わぬか!」


「かかれ」
冷ややかな開始命令が下る。
「土方ぁ!」
服部はその声目掛けて飛び込んで行った。
いや、と平助は考える。
誠の旗は陰りはしないだろう。
例えどれほど卑劣な行いをしても、
それは誠を輝かせるための必要な行いであるからだ。
彼自身は穢れても、誠の旗は穢れない。


よく、理解できるのに。
彼らのことならよく。
それでも裏切ったのは俺の罪で。
ごめん。
後悔はしていないけれど、平助は皆に謝った。
自分を殺させてしまうことを、卑怯な真似をさせてしまったことを。
ごめん。


そして最後の瞬間を迎えるため、
平助は雄叫びを上げて刀を握り締めながら走り出した。