第十五話
「黎明に似た」



自分の死よりも怖いものがある。
自分の死のほうが怖いのならば、とっくにこんな仕事やめている。


「御用改めである」

もう何度も口にした台詞を、扉を開けがしら唱えた途端、乱闘になった。
毎日ではないが、珍しくもない。
体は勝手に反応し、振り下ろされた白刃を受け止めて流し、
その力の流れを持って反撃する。
鮮やかに肉を裁った感触がした。左にまた別の敵。

無になれ、と言った周斎の言葉を最近思い出す。
頭で手順を辿るのではない、無になれと。
沖田には今その意味が分かる。命のやり取りをするとき、意識は邪魔になり、
いつも体の外に追いやられる。
きっと今の自分は、今夜一緒に踏み込んだあの斉藤と、
同じように無機質な顔をしていることだろう。


ふと右後ろに居た斉藤が息を呑んだ気配を感じ、途端沖田は思考を取り戻す。
「斉藤さん?!」
目の前にいた敵を切り伏せて、斉藤に駆け寄った。
戸口からの明朝の光に縁取られた斉藤が、手を顔にやっているのが見えた。
「怪我を…」
「なんでもない」
口早に斉藤は言い、刀を鞘に納めた。
「傷を見せてください」
「騒ぐな。頬を掠っただけだ」
斉藤の声音は落ち着いていた。
沖田がほっと息を吐くと、斉藤の怪訝な顔が向けられた。

「なぜ、そんなに動揺するのだ?俺如きの怪我で心を乱すな。
動揺は隙を生み、己の命を晒すことになるのを知らぬそなたではあるまい」

自分たちが容赦なく斬り捨てた男たちの、むせ返る様な血の匂いの中で、
一人の男の掠り傷を心配している沖田が、ひどく奇妙な生き物に見えた。
「やめてくださいよ」
沖田は明るく笑いながら言う。
「私、斉藤さんのこと好きなのだから」

出会って間もない人間を、好きと言ってしまえる沖田の心理を、
まだ斉藤は読めないでいる。
鬼人と化す戦闘中と、今の沖田との差異も。
お前が殺したその男たちと自分には、違いなどありはしないのに、
何故こうまでも残酷で、優しくなれるのだろう。
この男はどうやって命の優劣をつけているか。
気味の悪いやつだと、ただそう思って横目で睨んだ。
沖田は涼しい顔をして、気負いのない足取りで斉藤に近寄ってきた。
先ほど敵の顔を踏みつけたその足は、今は斉藤に向かって緩やかに動いている。

自分の死よりも怖いものがある。
大切な人が無事であるように願いながら、ただひたすらに剣は振るわれる。
斉藤にそんな思考が思いもよらなかった頃。
まだ、京に来て間もない頃の話だ。









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斉藤さんにとっては自分以外すべて敵。
沖田さんにとっては自分と仲間以外は敵。