2、悲
こんにちは。
お元気でいらっしゃいますか。
春らしい陽気になってきました。
今こうして筆を握っている私の背中にも暖かい日差しが当たっています。
こんなに天気が良いのに、部屋にこもって手紙を書いているなんて
少し情けない気分だけれど。
毎回のことですが、
自分の名前を記すことが出来ない無礼をお許しください。
時勢の中で自分がこんな立場に追い込まれるとは、
あなたと京にいた頃は思いもしませんでしたね。
さて私は今ある場所で療養を行っています。
とても良いところですよ。
植木屋さんの離れをお借りしているのですけれど、
思ったよりも周りには木々が多く庭には花も咲いていて、私の目を癒してくれます。
何の花なのか、ご夫婦に聞いたけれど忘れてしまった。
あなたに教えてあげられると良かったのだけれど。
白くて小さな花を沢山つけた木が私のお気に入りです。
今回は辛い報告をしなければなりません。
実は私は君に手紙を送るのは今回で最後にしようと思うのです。
京にいた頃は何の別れの言葉もなく去っていき、また突然手紙を送り、
そして今度はまた唐突にもう送らないという私を、身勝手な男だとあなたはなじるでしょうね。
本当言うと、私は自分の病を楽観視していました。
こうして療養していれば、いつかは治るだろうと。
そう気楽に思っていたのです。
治ればまた剣を振るう日々を過ごし、
またあなたにも会えるかもしれないと能天気にも思っていました。
しかし、さすがの私も気づきました。
もう病は止まらぬところまで来ていたのです。
坂を転がりだして回転を早めた球のように、
結果を迎えるのをもう医者にも私にも止められぬことに気づきました。
おそらくここが私の最後の療養所になるでしょう。
不思議です。
悔しく悲しく、そして理不尽な怒りが湧いていいはずなのに、
私は妙に静かな気分なのです。
武士としての私はさぞ不名誉な立場でしょう。
戦場ではなく畳の上での病死ですから。
ああ、今気づきました。
私は武士になりたいわけではなかったのです。
ただ仲間と共に大好きな剣術をし、笑い合っていられれば良かった。
そして私の大切な人たちが笑っていられるよう、守ることが出来ればそれで満足でした。
今の私はそれはやり遂げたような気がしているのです。
新しい時代がきます。
もう私にはそれがあなたにとって住みやすい時代であるよう祈ることしか出来ませんが、
私が生きている間は精一杯祈りましょう。
あなたが傷つかぬよう、(傷つけておいた私が言う台詞ではありませんが…)
そして幸せになれるよう、笑っていられるよう、健康に生きていけるよう。
最後に一つだけ、我侭を言わせてください。
聞き流してくれればそれでいい。
私の想いをただ静かに聞いて欲しいだけなのです。
今、私は、あなたに会いたいです。
…あなたに会いたい。
君のことばかり考えている。
君を、愛しています。
さよならに代えて、あなたに愛の言葉を送ります。
慶応四年改め明治一年 四月