「朝を乞う」
波立つ草原に有明の月
枯れた野に風が吹いて髪を攫う
悲しみも攫っていっておくれお前
言葉にならない叫び声を掻き消す風騒
もぎ取られていった命たち
縋る手は行き先を無くす
誰も彼も逝ったというのに
夜は今日も風体を変えずに落ちてくる
熟さない実を無理やり剥がした幼い頃
その手に残った無数の傷を思い出す
枝の抵抗 手に落ちた実は青く
樹木の香が漂う気がするのはたぶん幻
また一つ
走るたびにまた一つ
幾つ亡くせば朝になる
幾つ切り捨てれば花は咲く
長州という名の大木に生る私たち
枝の抵抗はこんなにもちっぽけで
諦めるのは簡単
終わらせるのは一瞬
しかしまだそこへは行けないのだ私は
生かされている命
矜持も身分も捨てた今
走れるだけ走ろうではないか
夜が明けきらぬ濃紺の闇
背の下の草は冷たく滴を含んで
今は動けないまま
君を想う君を慕う朝を乞う
どこからか君の笑い声が聞こえてくるのも
たぶん幸福な幻
秋山香乃さんの「五稜郭を落とした男」に触発されて(2005年)